星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


「まぁ……、理佳が羽村冴香さんと一緒に、アメジストホールで演奏した時ね。
 百花、何時の間にこの写真を持っていたの?」


そう言いながら、引き伸ばされたお姉ちゃんの顔へとお母さんはゆっくりと手を伸ばした。


「宝珠さんがくれたの。
 悲しそうな理佳さんの顔は、結婚式にはそぐわないでしょって」

「そうね。
 百花の結婚式だもの。理佳も笑って祝福したいわよね」


そんな会話をしながら、私たちは結婚式のリハーサルやら、何やらと
慌ただしく1日が動き始めた。


親族勢揃いの初顔合わせ。


伊舎堂家出身の宗成お義父さん。
亀城家の薫子お義母さん。

双方、名家の両親のもとに生まれた託実。


そして我が家の方も、お祖父ちゃんは人間国宝と言われる存在。


誰だかわからない参列者が多い中、
結婚式、披露宴と予定同時、1日は過ぎていく。



自分でデザインした、マーメイドラインのウェディングドレスを結婚式をあげ、
披露宴では、そのマーメイドラインのドレスに少しアレンジを加えて、最初の登場。

その後、姫龍さんデザインの和装を二度お色直しして、最後にもう一度カラードレスへと戻る。


入退場を繰り返しながら、ややぐったりとしつつも
最後のお色直しが終わって、会場へと戻る。


お酒も入っているので、皆がいい感じで出来上がりかけているのを感じながら
私は自分の席へとゆっくりと着席した。


全ての披露宴の予定が終わりを迎えて、退室になろうとした頃
オーケストラが、聞きなれたAnsyalのovertureを演奏し始める。



突然の出来事で、託実に視線を向けるものの
託実も、少し戸惑っていそうな気配がした。


もしかして、サプライズなの?


素早くスタッフによって運び込まれてきたAnsyalの機材。

アカペラで聴こえてくる、十夜の伸びのある歌声。


唯香が私の傍へと駆け寄ってくる。

オーケストラを演奏する人たちの中から、
裕先生と雪貴くんが託実の方へと歩いてきて二人が託実の名を紡ぐ。

裕先生の手には、託実の相棒であるサンダーバード。



「サプライズだよ。百花」


私の傍に来た唯香は、全てを知っていたように耳元で囁く。


「託実、モモちゃん、今日はおめでとう。

 現在、活動休止中のAnsyalですが
 今日一日だけ……モモちゃんの為に復活することになりました」


珍しい十夜の語り口調。



託実は、裕先生から相棒を受け取ると
高らかに振り上げて、メンバーの方へと向かっていく。


私は私で唯香に促されるように、
支えられながら、ステージの方へと引っ張られていく。

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