星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
「百花、ほらっ。
あっち。
いつもの特等席……」
いわゆる特等席のドセンって場所。
何が始まるのだろうと騒めく会場。
「えっと新婦、百花の親友、唯香です。
百花と一緒に、新郎の託実さんがやってる
バンド、追っかけてます。
今は、理由があって活動休止してるんですけど
うちらにとって、凄く大切な音楽なんです。
初めて、聴く人が殆どだと思うけど
良かったら一緒に楽しんでください」
ペコリとお辞儀する唯香。
唯香のトークから広がっていくAnsyal最初の演奏は、
唯香が一番大好きな天の羽音。
「Ansyal~」
久しぶりのバンド名を私の隣、声を張り上げる唯香。
唯香が叫ぶと、その叫びを受けて
いつものノリで十夜が続ける。
活動休止中の練習不足なんてまったく感じさせない
サウンドが会場内を包み込んでいく。
会場内のノリは、あまりにも何時もと違い過ぎて
Ansyalには、初体験の手拍子に包まれているけど
それでも久しぶりにどっぷりと浸かった
Ansyalのサウンドは私には心地よかった。
そっとお腹へと手を当てる。
多分……貴女も聞いてるよね。
お姉ちゃん……。
そう思ったら涙がスーッと零れ落ちた。
「百花……」
十夜のMCが続くと思っていたのに、
聞こえてきた声は託実で、
何時の間にかステージから私の傍へと移動してきていた。
そのまま託実にお姫様抱っこと言う奴で抱えられて、
私は再びステージへと連れられていく。
私の長いドレスの裾を抱えてくれるのは唯香。
ステージに準備された椅子へと座らされると、
唯香は私の傍に立って、Ansyalの方視線を向ける。
「俺から……そしてAnsyalから
まだ未発表の一曲。
- 星空と君の手 -贈ります……」
託実がそう続けると、事故の後……私が意識を取り戻したその時に
微かに覚えていた、あのメロディーが流れ始める。
そのメロディーのメインフレーズの一部は、
お姉ちゃんとの最期の時間にも流れていた耳に残るフレーズ。
理佳お姉ちゃんから私へと受け継がれていくメロディー。
託実からの、Ansyalからの贈り物。
そしてこのメロディーは、
何時か……お腹の中にいるこの子に返すの。
私たちの近くに生まれ変わってきてくれるお姉ちゃんに……。