星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
13.封印を解く日 -託実-
12月になったある日、
俺はずっと片付けっぱなしになっていた
紙袋を手にして、百花の待つ部屋へと向かった。
「託実、今日もお疲れ様。
もうすぐご飯出来るからねー」
キッチンでAnsyalのメロディーを口ずさみながら
何かを作ってくれる百花。
部屋中に広がるのは、シチューの香り。
「今日はゴメン。
シチューで手抜きしちゃった。
絵が追い込みだから」
ずっと筆を取って向き合い続けてきた絵が、
ようやく完成に近づいていたことを俺も知っている。
展覧会に出すのは、確か……来月だったか。
「ご飯作るの難しいなら、外食にいったって良かったんだ。
無理するなよ」
百花の傍に近づいて、後ろから抱き着いて
耳元で囁くように呟く。
「無理なんてしてないもん。
託実に食べて欲しかったんだから。
完璧な奥さん、なかなか出来なくてごめん」
百花はそう言って声を沈ませる。
「完璧な奥さんって何だよ。
今だって十分、百花は俺の奥さんしてくれてるだろ。
家政婦が欲しいわけじゃない。
忙しくて家事が出来なくても、料理が苦手でも
俺は……百花だから選んだんだ」
「有難う」
俺の方を振り返って微笑んだ百花は、
自分から背伸びをして俺に口づけをしてくる。
積極的な彼女。
そのまま押し倒してしまいそうになる理性を
必死に宥めて、俺は逃げるように別の話題を百花にふってみる。
「百花、少し時間いいか?」
そう言って、百花をリビングのソファーへと座らせると
俺はテーブルの上に、
昔、百花たちの両親から託された紙袋から中身を出して置いた。
亀城託実様。
封筒の表面に、俺の名前が続けられた封筒。
そして理佳が譜面に書き続けた
オリジナルの曲たちのメロディーが暗号となってる
楽譜が姿を見せる。