星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


五線譜と言う名の暗号。

あの頃の俺には、全く意味が解らなかった
その暗号の意味も、今の俺なら感じ取ることが出来る。


「託実、これって?」

「百花……今なら、百花と一緒ならもう一度向き合えるかも知れないって
思ったから、机の奥から引っ張り出してきた」

「中を見ていいの?」

「あぁ」


紙袋に剥き出しのままに入れられていた楽譜。

そして俺の名前が綴られた、
封筒の中に大切にしまわれていた楽譜。

それらの曲を、宝珠姉さんたちがDTVTの演奏で作り上げた
CDが1枚。


全てがあの日から封印し続けてきた物だった。




百花は順番に手を取りながら、
それらを見つめると、最後に俺の名が綴られた封筒をゆっくりと手に取る。



「これって……お姉ちゃんの?」

「あぁ。
 理佳の告別式の後、斎場でお義父さんとお義母さんから託されたんだ」

「そっかー。
 私が知らない間に、そんなことあったんだ」


百花がそんなことを呟きながら、
封筒の中身を引き出す。




「託実へ

 この楽譜が貴方に届いた時、私はもう託実の傍に居ることが
 出来なくなってると思います。

託実、今まで有難う。


託実と過ごした時間は、私にとっては、
夜明けのひと時のようで凄く優しい時間でした。

そんな託実との時間をこの夜想曲に織り込んで……。

 君に奏でる夜想曲

 世界でたった一人。
 私が恋をした最愛の貴方へ

 理佳」



百花の声で再び読み上げられた、
理佳からの最後のメッセージ。


「託実……これってお姉ちゃんからのラストレター?」

「ラストレターってことになるかな」

「えぇー、託実だけズルいよ。
 お姉ちゃんから、こんなメッセージ受け取ってて」


俺だけズルいって?
百花、反応するのはそこかよ……。


封印を解くのが、本当は今でもずっと怖かった。

百花と結婚した今だけど、
理佳に関わるものを持ち出して、
百花に離れられてしまうのがずっと怖かった。


だけど離れるわけでもなく、ズルいと来た。



これを受け取った当時の、俺の気持ちに配慮する素振りなんて
全く見せないで。

だけど……逆に、それを気遣われてしまったら
俺は俺で、またこの封印から解き放たれることがなくなりそうで。



「夜想曲。

 アイツが遺してくれたこの曲を、
 理佳に託されたこのメロディーたちを
 Ansyal流にアレンジして、発表してもいいか?」

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