星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
「頬に絵の具ついてる」
小さく耳打ちするように。
ぎゃぁぁぁぁ。
顔が赤面していくのを
感じると共に恥ずかしくて
心の中で絶叫しながら立ち尽くす。
「君も絵を描いてるの?」
立ち尽くす私に追い打ちをかけるように
話しかけてくる託実。
「百花さんは、当画廊の会長のお孫さんなんですよ」
自慢げに私のことを説明する相本さん。
人の気も知らないで、
穴があったら入りたいよ。
私は託実と相本さんにゆっくりとお辞儀をして、
洗面所へと駆け込む。
鏡を見て絶句。
あぁ、見られた。
頬、抓った時に
ついちゃったんだ。
コットンに、少し化粧水を含ませて絵具を落として
慌ててメイク直しを終えると、鏡の前で武装チェック。
ゆっくりと自分に気合を入れて、
再びギャラリーへと顔を出した。
託実は壁に掛けられた絵画を
一枚一枚、じっくり見つめながら歩いていた。
そんな様子を確認して、
ギャラリーの商談テーブルの方に、
紅茶とケーキを用意して並べる。
「あの、お茶のご用意が出来ました。
奥のテーブルの方とへどうぞ」
緊張する。
ちょっと上ずり気味な声を
何とか必死に隠すように声を紡いでいく。
「有難う」
いつもはステージの上の住人の託実が、
私服姿でゆっくりと私の方に近づいてくる。
それだけで鼓動は
もう高鳴ってドキドキ。
スマートに歩きながら近付いてきた
託実の仕草の一つ一つに見惚れてしまう。
こんなに近くで
託実がみれるなんて。
マジマジと洋服越しに得られる筋肉の付き方とか、
骨格とかそう言う情報を瞬時に、データーとして捕えていく
自分自身を感じながら。
「こちらへ、どうぞ」
椅子をひいて促すと、
託実はその椅子へと腰かけて、
紅茶を口元に運んでいく。
「アールグレイだね」
「はい。
託実さんがお好きだって
雑誌に書いてあったんで」
なっ、何言ってんの。
私。
確かに託実の情報なら、
公開されてるものは何でも知ってるわよ。
紅茶は、ダ-ジリンより
アールグレイ派だってことも
雑誌に記事になってたし、
この間のネットラジオでも放送されてた。
「有難う。
少し……気になってたんだけど、
いいかな?」
口元に運ぶティーカップを
ソーサーの上に置いた託実は、
そういって私に向き直った。
「はいっ」
私も……思わず、
答えてしまう。
何だろう。
託実……。