星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
「もしもし十夜、今いいか?」
電話に出た十夜に声をかけると、
十夜は仕事中だったのか、何かを話して再び俺の方の電話へと戻ってきた。
「あぁ、悪かった。
それで、託実の用件は?」
「今、宝珠姉さんから連絡が来た。
雪貴の留学の集大成で、DTVTの演奏会に惣領国臣たちと演奏が決まったらしい。
言い出したのは、惣領国臣みたいなんだけど」
俺がそう言うと、昂燿校の生徒出逢った惣領を知る十夜は「やっぱなぁー」っと呟いた。
「やっぱって、惣領ってそんなやつなの?」
「まぁ、変わりもんには違いないなー。
悪いようにはせんし、雪貴の経験値は大きく進化するってことでいんじゃねぇ?」
「まぁな」
「んで託実のはオレにどうしてほしいの?
その件で連絡してきたんだろ」
「あぁ。
大所帯だから、飛行機都合してほしくてな」
「だと思ったよ。
こっちにもお節介な惣領先輩直々に、ご指名が入ってる。
もう申請手続きは終わらせてるから、後は出立を待つのみ」
「流石だな。早い早い。
んじゃ、俺は残りの祈とか、百花とかそっちのフォロ-にまわる。
んで雪貴は、唯香ちゃんにはもう招待状送ったのか?」
「流石に、それくらいは此処まで惣領先輩がお膳立てしたんだからやるでしょ」
「そうだな」
「んで、来月の学院祭。
また演奏するだろ、その後はAnsyalのスケジュール的にはどうする?
こっちのスケジュール調整しとかないとな。
オレがAnsyalにまわってる間は、お父さんに正式ルートで依頼かけないといけないしな」
「了解。
スケジュールが調整出来次第、連絡いれるよ。
んじゃ」
十夜と打ち合わせを済ませた後は、日本をあけられるように
俺自身のスケジュールを調整しながら、百花の育児もフォロー出来るように心掛ける。
満月が誕生して以来、日に日に増えていく満月の私物。
プレゼント。
皆に祝福されて誕生しているのが、真っ直ぐに伝わって行く目に見える形。
時折、百花は苦笑いしているのは知っているけど、
それでも出掛けるたびに、ベビー用品の専門店を覗いては何かをお土産に買って帰ってしまう。
そんなプレゼントの決定的になったのは、
親父と母さんの一言だった。
突然の電話口で告げられた『ピアノオーダーしたから』の言葉。
いつかは……満月にピアノを習わせたいと思ってた。
それは多分、百花も唯香ちゃんあたりに教えて貰いたいって思ってるかもしれない。
そんな風には思ってたけど、その上を行く俺の親二人。
「託実、旺希ちゃんにお願いしたらすぐに手配してくれたわ。
満月ちゃんと一緒に成長していくピアノって素敵よね。
百花ちゃんも喜んでくれるかしら?
お母さん、ピアノが届くの楽しみだわ。
託実、ちゃんとピアノの部屋作っておいてよ。
もしピアノが入れられないなら、家何とかしなさいよ」
家を何とかしろって、
それは目茶苦茶だろ。
そんなことを思いながらも俺の脳裏には、すでにどの部屋にどういう配置でピアノを置くかも検討済み。
将来設計も踏まえて、防音室も作ってあるから何とかなるだろう。
俺たち家族のことも進めながら、慌ただしく仕事を終わらせて
ようやく迎えた演奏会の前々日。
十夜のチャータした飛行機で、俺たちは日本を旅立った。