星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
笑いながら答えた雪貴の表情が切なそうで……
俺から不安の色が消え失せることはなかった。
それ以上、何も話さなくなった雪貴は
準備に戻っていく。
先に演奏していたバンドが
次々と、ステージから帰って来ては
俺たちに挨拶をして、楽屋へと戻っていく。
俺たちの方はと、
それと入れ替わりにステージ衣装に身を包んで
機材の最終調整へと入っていく。
「時間だ」
最後のバンドのアンコールを終えた
ステージ内をモニタリングしていた俺たちは、
結成時代から続ける、祈りの儀式を行って
背中に背負った羽根をかばう様に、細い通路を歩いて行った。
「TAKA、託実、十夜、憲、祈。
今日は頼むわね。
Ansyalの凱旋、楽しみにしてたのよ」
そう言って俺たちに声をかけるのは、
マスターと一緒に、このLIVEハウスを守ってきた
スタッフの片倉さん。
今日のようなステージの時は、ドリンクのみのこの場所も
ディナー形式のLIVEの際には、調理師としての腕を振るう料理人。
「片倉さん、楽屋の差し入れ有難うございました」
慌ただしく動いていたマスターが「悪かったね」っと近づいてくる。
マスターの登場に、メンバーの表情も和む。
「託実には話したんだけど、
君たちのファンの車椅子の女の子は、今日は二階の最前列に居る。
一階だとどうしても、ファンの子たちが総立ちになって見えないだろうからね」
そう言って、マスターは俺たちに逢いたがってた車椅子の子の居場所を教えてくれた。
「わかりました。
LIVEの後、時間が取れそうだったら、その子にも直接会いますから。
先方の都合も確認しておいてください」
そう返事を切り返したとき、最後に演奏していたバンドが、
袖から一斉に降りてきた。
ステージは暗転する。
一輝たちが一斉にステージ上に
機材をセッティング始める。
「さぁ、出番よ。
頑張ってきなさい」
マネージャーの東城実夜(とうじょう みや)の声が
俺たちを送り出す。
「行くぞ」
円陣組んで、関係スタッフと気合入れをする中、
会場内からは何処から漏れたのか
Ansyalのメンバーコールが響き始める。
そのメンバーコールが
一際大きく響く中、
いつものようにovertureから幕を開ける。
眩しい光に引き寄せられるように
瞳を閉じて、その物語の中に入り込む。
光の中に吸い込まれていく憲。
憲コールが響いて、
一礼して相棒のドラムセットの方へと
移動していく。
続いて祈。
祈が一礼して持ち場についた後、
緊張が一気に高まる。
緊張から、えづきはじめる自分自身をコントロールするように、
ポケットに忍ばせているタブレットから、一粒……。
ブラックミントを取り出して、口の中に放り込む。
目の覚めるような
辛さが一気に口の中に広がる。
続くメンバーコールは俺。