星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】





再度、Ansyalの音色が耳に届いて、
私は慌てて目覚める。


9時にセットした目覚まし。
もう……約3時間過ぎたんだ。


すでに太陽が昇った外の空気をカーテンと窓を開けて室内に取り込むと
首を回しながら、大きく部屋の真ん中で伸びをする。


洗面所で髪型をセットして、
洗顔・メイクと出勤前の武装を終えると
自室に戻って、接客用のスーツに着替えた。


アイロンをかけてパリっとさせた
真っ白いブラウスの上に、
真っ黒のジャケットを羽織って、
同じく黒のタイトスカートを身に着ける。



さて準備は整った。



そのままカレンダ-のメモを確認して、
私は、玄関前に用意してあったキャリーバッグを
カラカラと引きずりながら外に出た。



頑張らなきゃ……。

仕事を頑張ったら、
その分だけ、Ansyalに逢える。

Ansyalに逢えたら、
私のリアも充実するはず……。


何度も自分の中に言い聞かせながら、
孤独に捕らわれそうになる自分自身を抱きしめた。



私、喜多川百花の元の名は、
満永百花【みつなが ももか】。


私には四歳年の離れた姉が居た。

私が中等部二年の夏に天国へと旅立った姉の名は、
満永理佳【みつなが りか】。

理佳は私が物心ついた時から、
何処かの病気でずっと入退院を繰り返して
両親を独り占めしてた。


入退院を繰り返し続ける理佳に、
父も母もかかりきりで、
私はいつもお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに預けられることが多かった。

幼稚園に入ることが決まった年、
私は神前悧羅学院の海神【わたつみ】校を受験して、
幼等部の入学が決まったと同時に寮生活開始。


幼い私の心は頑なに家族から離れていった。

お父さんにとっても、お母さんにとっても
必要なのは理佳だけで、私はいらない存在なんだって
最初はずっと悲しかった。

そんな悲しみに耐えきられなくなって、
何時しか、私には「お父さんもお母さんもお姉ちゃんも居ない」って
何度も何度も自分自身に言い聞かせた。



だけど、どんな言い聞かせても
優しかったピアノを沢山奏でてくれてたお姉ちゃんを忘れるなんて出来なくて、
お姉ちゃんに逢いたくて、寮生活が終わった初等部中学年の頃から、
自宅通学になったのをいいことに、
何度かお姉ちゃんが入院する病院に足を運ぶようになった。



だけど病室には入れなかった。




お父さんとお母さんが病室を出た途端に、
声殺すように泣き続けるお姉ちゃんの姿を目撃したから。



すぐにアラームが鳴り響いて、
白衣を着た男の人と、女の人たちがお姉ちゃんの部屋に飛び込んで
お姉ちゃんはその部屋から何処かへと連れていかれてしまった。

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