星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】



そんな状況が怖くなって、私は逃げるように病室を立ち去った。



だけど時間を見つけては、こっそりと病院に足を向けて
お姉ちゃんの姿を覗き見る。


私が顔を覗かせるたびに、お姉ちゃんが見せてくれた顔は
いつも寂しそうな辛そうな顔ばかりだった。



だから……こうやって思うことにした。


お姉ちゃんも辛いのかもしれない。
逢いたいけど、私はお姉ちゃんの前に姿を見せちゃダメ。

お姉ちゃんを追い詰めてしまう存在になるくらいなら、
お姉ちゃんに笑って欲しいから、自分から離れなきゃ。


大好きなお姉ちゃんには、元気になってほしいから。


お父さんもお母さんも、お姉ちゃんに元気になって欲しいから頑張ってる。
だけど私が居たら、お父さんもお母さんも、お姉ちゃんだけに集中出来ない。


満永の姓である限りは、私はどうしてもお父さんやお母さん、お姉ちゃんに
すがってしまうから……だから私が捨てるの。




自分の心を守るために。
それを理由に……。



その決断に周囲がどれだけ傷ついても、
自分自身がとれだけ傷ついても、それでお姉ちゃんが元気になってくれるなら
それでもいいって思った。


初等部四年生の六月、私は満永を捨てて
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの養子として
喜多川百花になった。


そんな寂しさを埋めるために、
お祖父ちゃんの勧めで始めたのがお絵描き。


それが長年積み重なって、
高等部の時に様々な絵画コンクールで入選し、
そのまま学院の悧羅校舎にのみある大学の芸術部へと
進んで今に至る。



姉が他界してもうすぐ8年。



だけど歪んだ私の心の代償は、
今も満永の家とは上手く折り合いをつけられない。



喜多川の祖母も、
三年前に他界して、今は祖父と二人。


お祖父ちゃんも80歳と超えた今、
一日も早い、心の自立が私の課題。


大学を卒業してお祖父ちゃんの自宅近くに借りたマンションで
一人暮らしは始めたものの、お祖父ちゃんの生活が心配で
殆ど自分のマンションに帰る機会は逃してる。


そして……今も携帯の奥深くに収納されてある
開かずのフォルダー。
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