星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


勢いに任せて、俺に言いたい放題感情をぶつけた実夜は、
下を向いたまま俺の部屋から飛び出していく。

溜息を吐き出しながら、
俺は力なくベッドへと崩れる。


Ansyalは隆雪の宝物。


そう言われてしまえば、
俺には何も言い返せない。






大学時代。


俺の中学時代からの親友である、
堂崎美加の紹介で出逢ったのが、東城実夜。

実夜は隆雪のファンの一人だった。

実夜は幼い頃に、実の両親に虐待されて施設に保護された存在。
そして養親と出逢い、今の家族に迎えられた。
そんな養父が病気の為に他界し、養母だけになった実夜の周囲には
養父の遺産を狙う親族たちが集まった。

心無い誹謗中傷に傷ついた実夜を支えたのが、
隆雪が作曲した俺たちのAnsyalのメロディー。


美加に連れられて俺たちAnsyalと交わるようになった後も、
想い人が居る隆雪の心を知りながらも、
出来る限り傍で、隆雪の為に何かやりたいと今も学生時代から担っている
マネージャー業務を続けている一人だった。

そんな実夜だからこその言葉だとは、
俺も知ってるつもりだったんだけど、
「意外に心に突き刺さってくるものだな……」っと自嘲的に呟く。


Ansyalは、俺にとっては理佳との夢の形。

中学三年生の夏に出逢った、理佳が俺に刻み込んでくれた夢の形。


そして隆雪にとってのAnsyalは、
病気を発症した後、現実を受け止めきれずに向かった場所で
アイツの命を助けた一人の女の子にメッセージを送り続ける為。

名前も何も知らないその少女が眠るベッドに、
隆雪はたった一枚、自分たちのデビューCDのサンプルを置いた。


その少女に自分の今を見て欲しいから、
ただその一心で、治療とバンド活動を必死にこなし続けてきた。




隆雪の想いも、実夜の想いも知ってる。

Ansyalを潰したいわけじゃない。
そんなつもりはねぇよ。

隆雪を裏切りたいわけでも、傷つけたいわけでもない。


ただ……俺は……
自分の心と向き合いたいだけなんだ。


俺自身がこの暗闇から抜け出すために。


それすらAnsyalのリーダーを担うっていうポジションは
許されないのかよっ!!  


八つ当たりするように、怒りに震えた握り拳で
ベッドマットを叩く。



そして……昨夜、百花ちゃんの姿が理佳と重なって、
気が付いたら、キスをしてしまっていた現実を思い返す。

< 68 / 253 >

この作品をシェア

pagetop