星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
*
「た・く・み……」
*
ゆっくりと俺の名を途切れ途切れに紡いだ
理佳の最後の声が、ゆっくりと浮上してくる。
理佳……。
理佳の顔を思い出せば、ふと重なっていくもう一つの顔。
理佳と百花ちゃん。
鬩ぎあう二人から逃げ出すように、再び理佳が使っていた病室から抜け出して
隆雪の病室へと飛び込んだ。
ベッドサイドの椅子に腰掛けて、親友の顔を見ながらも
俺の精神は自分でコントロールが出来なくなって息苦しさを覚え、
俺はアイツのベッドに体を預けるように意識を手放した。
目が覚めたのは伊舎堂の親族のみが使用できるVIPROOMの一室。
久しぶりに顔を見た親父とお袋。
そして隆雪の病室で倒れたのを見つけ出してくれた、
裕真兄さんの姿があった。
「託実、目が覚めたのね。
喉は乾いてない?」
そうやって声をかけるお袋。
親父の方は、無言で俺の腕を掴んで時計を見つめる。
「託実、過労と精神不安かな。
託実は昔から、過度なプレッシャーにも弱かったからね。
31日のファイナルに向けて、体調を管理していかないとね」
「裕真兄さん、今日は何日?」
気になるのは日付。
31日のファイナルにって言葉が出て来たからには、
31日にはなってないことはわかる。
「8月27日。
理佳ちゃんの命日だよ」
そう言って答えたのは、
理佳の主治医をしていた親父だった。
「墓参り……行ってもいいかな?」
ゆっくりと紡ぎだした言葉に、
両親と裕真兄さんはお互いの顔を見合わす。
「託実、朝になったらもう一本点滴を追加したいから
昼を過ぎて、託実の体調次第でお墓参りの件は決めるよ。
もう少し休むといいよ」
そんな声に誘われるように、
再び目を閉じた俺は眠りの中へと吸い込まれていった。
次に目が覚めたのは昼を過ぎた頃。
昨晩の息苦しさが嘘の様に解放された俺は、
無事に退院許可を貰って、病院を後にする。
何時もは早朝に一人、参るアイツの眠る場所。
日中になると、親族たちがお参りに来ると思ったから
誰にも邪魔されずに、アイツ話したかった。
だけど今年はそうはいかない。
病院から車を飛ばして、海沿いのアイツが眠る場所へと向かい
駐車場に車を駐車した。
車から降りて、アイツのお墓に向かう途中
再び俺の前に姿を見せたのは、喪服に身を包んだ百花ちゃん。
まさか……彼女は理佳の妹?
そんな疑問がすぐに湧き上がる。
「こんにちは、百花ちゃん」
「あっ、こんにちは。託実さん」
「奇遇だね」
「ホント、そうですね」
「この場所に誰かのお墓があるの?」
気が付いた時には、
百花ちゃんに問いかけていた気になっている関係。