星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】



手元にはチケットがあるのに、
託実に逢うのが怖くて、会場には足が運べないでいた。



香港から帰って来て私は、
託実から逃げるように、祖父の職場で仕事に没頭する。


デパートの催事スペースを借りて行われる
ギャラリーにも率先してスタッフとして参加した。


あの日、託実の部屋に忘れた買い物袋は、
今も手元には戻らない。


食料品なんて一切入ってないけど、
あの中には……香港で購入した雑貨やお洋服が沢山入ってたんだけどな……。

散財しながら手に入れた戦利品は、
落ち込んでる私を上向きにさせてくれたものたちだから
戻ってきてほしい。


そう思う気持ちと……、LIVE会場に足を伸ばして
うまく託実に逢えたとしても、託実から戦利品たちを返して貰えたとしても
『遊びだった』って言われてしまうのが怖い。



託実は……芸能人。


託実には沢山のファンがして、
私はその中の一人でしかないのは知ってる。


だけど……託実の唇が触れた
初めてのキスくらい……夢を見続けたいから。



託実がお祖父ちゃんの画廊に買い物に来て、
託実が私の絵を買ってくれて……託実のホテルでキスをした。



非現実的な夢のような出来事だけど、
私にとっては大切な……憧れの君との大切な記憶。




そんなことを思いながら、
私は香港で手に入れた、サイン入りの未発表楽曲を聴きながら
夜は静かにキャンパスに向かう。



託実から貰ったその曲で浮かんだ感情のままの星空を
真っ白いキャンパスに乗せていく。



その曲名は『星空と君の手』。



Ansyalが今のメンバーになる前に作曲されていた
インディーズ時代からのLIVE限定サウンド。


そんな貴重な曲を聴きながら、あんなに筆が進まなかったキャンパスには
順調に色がのせられていくいく。



キャンパスいっぱいに描くのは、満天の星空。

星空にはAnsyalのイメージである天使の羽をふんわりと散らして
その先の世界に、ゆっくりと手を伸ばしてるそんな絵が思い浮かんで
必死に夜はキャンパスに向かい続ける。




何もしていないと、託実のことを考えてもやもやしてしまうけど
仕事を必死にしてる時と、こうやって絵を描いている時だけは
無心になれる。

その合間合間に、もしかしたら唯香がツアーに参加してないかと電話をしてみるものの
親友とは一切音信不通。


だけど唯香も社会人。
私も社会人。
< 75 / 253 >

この作品をシェア

pagetop