星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
「お邪魔します」
声を出してスタスタと入る部屋。
足元には、何かが散乱してる感覚が伝わる。
カーテンの方に向かって、
素早く開くと、眩しい光が映し出す唯香の部屋の惨状。
眩しい光が映し出した部屋の惨状。
部屋中に散らばった
アルコールの空き缶・空き瓶。
そしてグランドピアノの下、布団を敷いて
生きた屍の様にぐったりとなってる唯香。
「唯香っ!!
何してんの。アンタは」
ってか……唯香……。
まぁ、私も唯香のこと言えないけど……。
なんて私も似たようなことをした経験があるため、
似たもの同士だなーなんて思いつつも、
とりあえず身の置き場を作ろうと、床に散乱した空き缶を回収していく。
「ご飯は?」
部屋を片付けながら、問いかけるも唯香は黙ったまま。
唯香の場合は、
ご飯を食べてたら「食べてる」って答えるのが通常。
無言ってことは……。
「もう。
ホント、唯香ってわかりやすいよねー。
行動が」
食事もせずに、
アルコールだけ煽って屍になってた……って。
もっと早く気が付いてあげればよかった。
そう言えば、香港から帰ってくる時から元気がなかったのに……。
そんなことを思いながら、
少しでも何かを食べさせないとと考える。
だけど唯香はご飯を何日も食べてなさそうで、
飲んでいるのはアルコールだけ。
とりあえずポカリを温めて飲ませたらいいかな?
っと自分の熱中症対策に鞄に忍ばせてあったペットボトルを取り出して
マグカップに注ぐとレンジで軽く温める。
唯香はグランドピアノの下から這い出して、
壁に持たれるように座ると、
マグカップを両手で受け取って、口元に運ぶものの
ポカリですらうまく飲めなかった。
口元から服の上に零れ落ちるポカリを
近くにあったタオルに吸収させる。
僅かに飲み込んだと思った飲み物も、
急に立ち上がったかと思うと、トイレに駆け込んで
吐き出してしまう。
「唯香。
何時から、この状態?」
そんな親友の状態に思わず声を荒げる。
唯香は何も言葉を発しないままに、
首だけを左右に揺らした。
構うなって。
「もう。
バカなんだから」
それだけ告げると、唯香の手荷物と自分の手荷物を持って
唯香を支えながら立たせると、
自分の愛車へと誘う。
助手席に座らせて、ゆっくりと車を走らせて向かうのは
唯香の自宅近くの救急指定病院。
もう夜だから殆どの病院は診察時間が終わってる。
神前悧羅大学医学部付属病院。
私にとっては、
お姉ちゃんが亡くなった苦手意識の強い病院だけど、
今はそんなこと言ってられない。
キュっと締め付けられるように痛む心を押し殺して
今は唯香を助けたい一心で、
大学病院へと車を走らせた。
「百花、もういいよ。
私に構わなくても」
そこに唯香がいるのに、
心は閉ざされて何もうつさない。
そんなに唯香の状態に、
遠巻きに見た理佳お姉ちゃんの姿が重なる。
震えそうになる体と必死に向き合いながら、
車を目的地へと走らせ続けた。
唯香を助手席に残したまま、
車椅子の手配と、窓口で受け付けを先にしようと
私は車を飛び出す。
唯香の鞄から「ごめんなさい」っと小さく呟いて
財布を取りだすと、そこには診察券と保険証を見つける。
それを出して、受付を済ませると車椅子を借りて
慌てて車へと向かった。
助手席のドアを開けて、唯香を抱えて
車椅子へと移動をさせようと必死になってた私に
少し年齢の高い男性が声をかける。