星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】



「君、動かさないで」



その人はそう言うと、唯香の傍に寄って
脈を確認したり状態を見る。


お医者様なのかな?



そう思ってると、すぐに携帯を取り出して
何処かへと電話した。



「お疲れ様、宗成です。
 悪いが裕真を第一駐車場に」 


そう言って短く電話を切ると、
その人は軽々と唯香を助手席から抱き上げると
お姫様抱っこのまま、建物の中へと連れていく。


空っぽの車椅子を押しながら慌てて中についていくと、
そこには白衣姿の人が二人駆けつけてきて、そのまま唯香を抱き取ると
何処かの部屋へと駆け出していった。


「この車椅子は受付に返しておくよ。
 私は用事があって処置には加われないが、
 彼女と共に行動するといい。
 左近くん、彼女の案内を頼むよ」


そう言うと唯香を最初に助けてくれたお医者様らしき人は、
車椅子を受付嬢に預けて、エントランスから出ていく。


「どうぞ、ご案内します」


そう言われて彼女の後ろをついて歩く病院内。

エントランスの入り口には、
昔と変わらないグランドピアノが一台。


闘病生活を続けながら、何時しか弾くようになってた
お姉ちゃんの演奏してたピアノを横に通りすぎて、
奥の方へと連れられていく。


「患者さんのお名前は?」

「緋崎唯香です。
私は、唯香の親友で喜多川百花っていいます。

 暫く音信不通で連絡が取れなくて、今日気になっていったら
 こんな状態で……。

 唯香、助かりますか?」

縋るように看護師さんの訴えかける。


「こちらで暫くお待ちください。
 処置室の応援に入ります」

看護師さんは落ち着いた感じで、
私に一礼すると扉の向こう側へと消えていく。


再び扉が開くまでの間、私は自分の体を両手で
きゅっと抱きしめるように時間をやり過ごした。


私にとっての長い時間過ぎた頃、
肩に触れられる指先に、ビクっと体が硬直する。


「貴女、大丈夫?」

優しく問いかけられる声に、視線をあげると
何時の間にか処置室から出てきた、看護師さんが気遣う様に覗き込んでた。


「あっ、大丈夫です」

「でも顔色が悪いわよ」

「えっと……私、昔から病院が苦手で。
 だからだと思うんで。

 唯香は?」

「お友達は、暫く入院して様子を見ることになりました。
 貴女も病室に顔を出されますか?」

「はい」

そう言うと看護師さんに連れられて、唯香が眠るストレッチャーの後を追いかけていく。

エレベーターに乗り込んで上の階へ向かうと、
唯香はナースステーションより、少し離れた病室へと運ばれた。


距離は離れていても、その部屋は個室。


「あの……個室って高いんじゃ?
 唯香、一人暮らしなんです」

「裕真先生の判断ですから、
 その辺りは私にはわかりかねます。

 それでは何かあれば、ナースコールを押してください」

唯香をストレッチャーからベッドに移動させて、
他のスタッフがストレッチャーを運び出すと
看護師がゆっくりとお辞儀をして病室を出ていく。


暫くすると入れ違いで、
白衣を着た別のお医者様らしき人が病室を訪ねてくる。


「こんにちは。
 少しお邪魔しますね」

そう言ってその人は唯香の傍に行くと、
静かに何かを確認するように状態を診て
ゆっくりと微笑んだ。


「唯香さんの主治医を受け持つ伊舎堂裕です。
 少し席をはずしておりましたので、
 救急処置は別の医師が担当したのですが」

そう言いながら、唯香の主治医は微笑みかける。


柔らかな表情を持ちながら、
心の中を見透かされてしまいそうな目が
少し怖くなって、窓の外へと視線をそらした。
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