星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
「左近さんに伺いました。
貴女も少しお加減が優れなかったようだと……」
「あっ、大丈夫です。
私の場合は原因がわかってるんで」
そう……原因はわかってる。
この病院は大好きなお姉ちゃんがずっと
苦しんできた病院だから……。
お姉ちゃんを助けてくれなかった場所だから。
そして私とお姉ちゃんを引き裂いた場所だから。
「えっと、私。
唯香の着替え取ってきます」
口早に告げると、
逃げ出すようにその病室を後にした。
着替えを取りに戻ってくると、
唯香はまた問題行動を起こしてた。
意識を取り戻した唯香は、病室を拭け出して
院内を彷徨った挙句、階段から転落して足を骨折。
何やってんだかっ。
その後は私も、仕事と唯香のお見舞い、
そして眠りにマンションに戻る日々が続き
気が付けば、カレンダーは8月26日になろうとしていた。
明日はお姉ちゃんの8回目の命日。
その日も仕事を終えて、
夕方、唯香の入院する病院へと向かう。
すると院内の廊下で、
思いがけない人が姿を見せる。
「百花ちゃん」
「託実……さん」
お互いを捉えた途端、思わず立ち尽くした。
こんなところで
再会するなんて思わなかった。
高鳴る鼓動はどんなシチュエーションでの
再会でも嬉しくて。
だけど……言葉が思うように続いてくれない。
「百花ちゃん、どうして此処に?」
「唯香のお見舞い。
託実さん、昨日の新潟公演で残すはファイナルだけですよね。
地方公演お疲れさまでした」
「有難う」
「それより託実さんはどうして此処に?
前に言ってた、託実さんのお友達が入院してる病院って
ここなんですか?」
少しでも言葉を交わし続けたくて、
自分の記憶をフル活用して必死に会話を続けようと試みる。
「あっ……うっ、うん。
もう二年近く親友が入院してる。
百花ちゃんの絵も病室に大切に飾らせて貰ってるよ」
「お友達、早く元気になったらいいですねー」
「有難う」
何気ない会話を続けながらも親友話題は禁句だったのか
時折、辛い表情を浮かべる託実が気になって、
少しでも早くその話題が終わるように切り返す。
「託実、ちょっといいかな?」
白衣を着た先生に呼ばれる託実。
「すぐ行くよ」
白衣の先生にそうやって告げると、
託実の視線はもう一度私を捉える。
「ごめん。
また逢えるかな?
次は少し、お茶できたらいいね。
唯ちゃんに宜しく」
早々に告げると託実は私の前から姿を消した。