星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】
10.理佳 ~愛と戸惑いの中で~ -託実-
9月。
理佳の命日が過ぎた後も、
俺は慌ただしい時間を過ごしていた。
今も大学生活を続ける祈も、学業優先モード。
12月のピアノコンクール本線に向けて、
着々と予選を通過してきてる雪貴は、
高校生活とピアノコンクールに向けての準備。
瑠璃垣の財閥トップを担う十夜と、
十夜の側近ポジションを受け持つ憲の二人は、
慌ただしく海外に商談の旅に出掛けていた。
9月、10月はAnsyalとしての活動は小休止時期。
10月の下旬から11月頃に、
次のアルバムに向けての地下作業に入る予定が決定しているため、
この2ヶ月はメンバーそれぞれが時間を見つけて作曲を手掛けたり、
スキルアップに務める時期になっていた。
「託実、少しいいかしら?」
宝珠姉の声が聴こえて、
その背後には、宝珠姉の元【ゆぁん】家のシークレットサービス兼
トパジオスのプロデューサーが暁鈴【しゃおりん】が控える。
ノーパソを見つめる画面から視線を移動させて、
俺は宝珠姉を作業部屋に迎え入れた。
「どうぞ」
「有難う。新曲の準備かしら?」
「まだ触りだけしか出来てないけど」
「そう。
Ishimael【イシマエル】の羚【れい】、託実も知ってるわよね。
ex.SHADE【シェード】の最年少ベーシスト・羚」
SHADEの伝説のギターリスト。
佐喜嶋怜【さきしま りょう】さんの秘蔵っ子。
そして中学時代。
俺がベースを始めたばかりの頃に、勝手にライバルと決めた存在。
理佳との出逢い……怜さんとの出逢い……SHADEとの出逢い。
この出逢いが、今の俺の未来を切り開かせた。
「夏前に怜の追悼企画で、アルバムを手掛けたでしょう。
羚がもう一度、
託実と一緒にプロデュースをしたいって希望してるの」
「俺は羚とプロデュース?
誰の?」
「今は活動休止中のYUKIのプロデュースは勿論なんだけど、
新たにもう一人。
狭霧【さぎり】として、プロデュースしたい女の子。
年は託実よりは上だけど、琥珀と暁鈴がLIVEハウスで歌ってる
蒔田如月【まきた きさらぎ】を見つけてきたのよ」
そう言いながら、宝珠姉は音源をセットして俺にヘッドホンを手渡す。
受け取ったヘッドホンを耳に当てながら、その歌声に集中すると
心の裏側に圧縮されたものを吐き出すように、切なげに歌う声が耳に入り込んでくる。