星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


何かを触って車にエンジンがかかると、
心地いい振動が私の体を包み込む。

慌ててシートベルトをかけると、託実もシートベルトをして
車をゆっくりと動かし始めた。



車を運転する託実の横顔を無言で見つめる。




「どうかした?百花ちゃん」

「あっ……えっと……」



言葉が続かなくて、夢じゃないのかと自分の頬を抓ってみる。


「あっ、痛い……」

頬を摩りながら告げる私に、
託実は「そりゃ頬を抓ったら痛いよ。夢じゃないから」と優しく答えてくれる。


そして託実から伸ばされた手が、私の膝の上にある手を掴み取る。


「居るでしょ?」


少し子供っぽさが残るような仕草で私を安心させてくれる託実。


そんな託実が連れて行ってくれたのは、
とても高級そうな、とても高そうなホテル。



ホテルのエントランスに車を入れると、
ドアマンがゆっくりと近づいてきて、助手席側のドアを開ける。


運転席側から出てきた託実の手にエスコートされるように、
助手席のドアから立ち上がると、託実の手から鍵を受け取ったホテルのスタッフが
何処かへと託実の車を移動させていく。



「託実さま、ようこそアメジストホテルにお越しくださいました。
 まずはお部屋へと案内させて頂きます」


そうやってお辞儀をして、私たちを誘ってくれるのは
スーツに総支配人の文字を名札に付けた男性スタッフ。


誘われるように連れられたのは、
関係者専用と書かれた回数の一段のボタン。



「本日のおもてなしは、裕真さまより仰せつかっております」


総支配人と記された人は、
託実にいろいろと話をしていく。

最上階と記された文字にライトが灯り、エレベーターが開くと
敷き詰められた豪華なカーペットの上をゆっくりと歩いていく。


「本日のお部屋はこちらでございます」


託実が持つカードを受け取って、支配人は鍵を開けるとゆっくりとドアを開く。


シャンデリアが輝く豪華な部屋に、
大きなベッドが一つ。


窓際にはテーブルとソファーが並んでる。


「申し遅れました。

 私、アメジストホテルの総支配人を務めます
 佐喜嶋【さきしま】と申します」


そう言って、深々とお辞儀をする。

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