愛してるの伝え方
「てかさ、見てたの? 聞いてたの?」

「聞いてたよ」

用具の奥底から、藤岡さんのスマホが出てきた。
通話中となったままのそれは、橋本くんのスマホに繋がっていたようだ。

「ちなみに、聞いてたのは俺らだけじゃない」

ちょいちょいと藤岡さんが手を招く。
倉庫には鈴木さんと、名も知らない、一度呼び出された時にいた女子が入ってきた。

「この裏切り者! 手伝うって言ったくせに!」

女子は怒りを露わにしている。
対して鈴木さんは冷静なものだ。無表情のまま、表情ひとつ変えない。

「鈴木さん、すいませんでした。
…でも、私、瀬戸くんと離れたくないみたいです」

私は頭を下げた。
鈴木さんは私の肩に手を置く。

笑い声と鈴木さんの声が聞こえてきた。

「ふふ、ふふふ。
いいの。もう瀬戸なんかに興味はないしね」

「……鈴木さん?」

いつもとだいぶイメージが違う。
穏やかで可愛い笑いではなかった。

「さっき橋本に聞いたわ。
あんた、事務所は事務所でも、モデルじゃなかったのね」

「橋本言ったの!?」

瀬戸くんは橋本くんを睨みつけた。
橋本くんは我関せずといった様子。

「私の彼氏がゲイビデオ出演の依頼が来た人だなんて、笑えない冗談だわ。
だからもうあんたなんかいらない。

これからは近くに寄って来ないでね?」

鈴木さんは冷たい目でそう言い切って、倉庫から出ていった。
友達の女子と一緒に。


……鈴木さんってあんな人だったのか。
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