世界一遠距離恋愛
「こうしてお前の声を聞く事もしばらくできなくなっちまうんだな。さっさと手術終わらせて目覚ましてお前と話してぇよ、絵里子。」
「そうやって焦んないの。…ゆっくり、確実に手術してもらうんだよ。」
「やっさしいなーお前。もっと『早く帰って来てよ!手術なんてさっさと終わらせちゃって!』とか可愛い事言ってくれても良いのに。」
「急かして失敗しちゃ元も子もないでしょ?…ほら、もうすぐ時間なんだから早く電話切って準備しな?」
「わーってるわーってる。…じゃ、終わったら話そうな。」
「うん、いってらっしゃい。」
…電話が切れる直前、透くんが鼻をすする音が聞こえたのは気のせいかな?…つられ泣き、しちゃったかな。透くん。
「おいおい、元気付ける為の電話にどうしてお前が泣いちゃってるんだよ。」
「だってぇっ…もしかしたらこれが最期の会話になっちゃったかもしれないじゃーんっ!」
「縁起でもない事考えつくよなぁ…変な所大人なんだからな。」
お兄ちゃんはそう言ってあたしの涙を拭いてくる。…泣いちゃだめって思ってたのに、泣いちゃったよ。元気に笑顔で見送ってあげようと思ってたのに。…最悪の場合これでお別れ、なんて考えたら急に涙が止まらなくなった。冷静に考えればこれから透くんが受ける手術は成功率二割以下。成功したら奇跡なんて言われているんだから、やっぱりほぼ失敗するも同然である。
「余計な事考えんなってー。あいつお前に何て言ったよ?」
お兄ちゃんはあたしの鼻水を拭きながら何度か咳払いをした。毎度毎度全く似ていない透くんの真似をする準備運動がやけに長い。
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