無理して笑うな

宮森 拓真は俺達の前まで来た。




「新入りさん?」




宮森 拓真の笑顔に俺は何も言えなかった。




「今面接中。あと1人なんだけど社長なんだよ。今どこにいらっしゃるか知らない?」




「ああ、社長なら今ここに向かってると思いますよ。俺とは今朝の撮影終わってから別行動だったんで。」




宮森 拓真はそう言ってから俺に手を差し出した。




「初めまして。宮森 拓真です。向井さんが社長に面接設定するなんて、よっぽどの人なんだろうね!」




「あ…初めましてじゃ、ない。」




俺は珍しく口ごもってしまった。




今まで人と話しててこんなことはなかった。




「俺は中村 悠斗。久しぶり、拓真。」




そう。



俺は拓真って呼んでた。



俺はこいつと親友とまではいかないが、そこそこ仲が良かった。



唯が引っ越してしまうまでは。



拓真の顔が驚きに変わり、目はこれでもかというほど見開かれる。



拓真の差し出していた手が降り、その代わり言葉が口をついて出た。




「…悠斗……」




「なんだ??君達知り合いだったの?」




神崎さんが驚いたように俺達を交互に見ている。




「ん?ああ、ちょっとね!じゃーね神崎さんありがと。」




拓真も動揺しているようだった。



何に対してのお礼なのか、神崎さんはいきなり慌てだした拓真に首を傾げながらも「ああ…」と言った。




「ちょっと、いい?」




俺が頷きもしないうちに、拓真は歩き出した。



俺もその後をついて行く。



拓真は社長室に向かっていた。



社長室までの短い階段に足をかけたとき、すぐ隣のデスクに座った薫ちゃんと目があったが薫ちゃんは何も言わなかった。



社長室は応接室も兼ねているようで、両開きの扉を開けて入れば右が応接室、左が書斎のようになっていた。




拓真は応接室に入るとまず電気をつけて俺を座らせた。



自分はその向かいに座る。





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