無理して笑うな

〈唯said〉

撮影直前になってもあたしの気持ちは晴れないまま。




おかしいな。



撮影前は、それだけに集中するようにしてる。




…というより、それ以外のことは考えられない。






なのに






さっきの悠斗のことを思い出す。



悠斗はどこか上の空で



あたしの方はチラリとも見てくれなかった。




「ゆーいちゃん!」




気持ちがどよーんとしてきたことに危機感を感じていると、ミナがあたしの背中に飛びついてきた。




「ミナ!びっくりしたぁ。」




「私の撮影は終わったけど、様子見に来ちゃった!」




この後アメリカに帰るんだ!




ミナはそう付け足して笑った。




「そっかぁ、寂しくなるね。」




「唯ちゃん、可愛い!」




ミナはそう言って、あたしを抱きしめてくれた。




「緊張、してる?」




「うん…ちょっと…」




悠斗のことばっかり考えてて気づかなかったけど



そう聞かれると緊張してきちゃった…



だって、今回は最後の締めのシーン。



ここの良し悪しで作品の価値が決まるって言っても過言ではない。




「頑張れ、唯ちゃんなら出来るよ!私が頑張って意地悪い美玲を演じたんだから、後は頼んだよ!」




「うん、任せて。」




「それにそれに、拓真君とのキスシーン!いくらフリだって言っても2人のファンが黙ってないだろうね〜。」




ミナはどこか楽しんでる様子でそう言った。



拓真君とのキスシーンはフリでいいって明石監督に言われてるから、特に不安はない。



でもフリでどこまで表現出来るか、頑張るしかないよね。







「もう1回言うけど、頑張れ、唯ちゃん!」




ミナの明るい声に、少しだけ勇気をもらえた気がした。






< 122 / 135 >

この作品をシェア

pagetop