無理して笑うな
「悠斗!」
腕を引きながら撮影現場を離れた俺に、唯はされるがままになっていた。
みんなが見えなくなったあたりで俺は足を止める。
唯の腕は、掴んだまま
「ねえ悠斗、どうしたの?」
「…ちょっと、な。」
俺はそれから初めて振り向いて唯を見た。
唯は顔をしかめて俺を見ている。
でも、俺の目がいったのは唯の唇で
それにさっき拓真が触れていたことが頭をよぎる。
「…拓真とキス…してた。」
唯がハッとしたかと思うと泣きそうな顔をして俯いた。
何言ってんだ、俺。
唯を苦しめたいわけじゃないのに。
「…キス、されたの初めてだったんだ。」
唯の言葉が、また俺の胸にささる。
初めて?
そんな、ことって……
「拓真君は、好きだよ。でもそれは友達としてで…
やっぱり初めては、好きな人としたかったなぁ…なんて。」
唯はそう言って、笑った。
「…っ!」
俺は気づけば唯の頰に触れていた。
唯の体温が手のひらに伝わってくる。
「悠斗?」
「好きな人って、誰。」
苦しい。
胸がモヤモヤする。
唯の好きな人は俺であって欲しい。
それは拓真も思ってたことだろうけど、俺の方が気持ちは大きいはずだ。