無理して笑うな
あたしの驚いた顔を見たのか、拓真君が少し笑った。
「思い出した?」
「あ、あの…あたしと悠斗のことからかった拓真君!」
「そ、それ。」
拓真君は少し悲しそうな顔になると、会議室のすぐ隣の閲覧室に入り、そこにある1つの椅子に座った。
「あの時はごめん。
唯ちゃんが引っ越してからいろいろ考えたんだ。俺いらないことしたなぁ…って。」
あたしもその正面に座る。
「なんで?拓真君は何も悪くないでしょ。」
そんなこと、嘘。
あの時、悠斗がなんであたしのことをブスって言ったのかはあたしも分かってる。
ただ、照れを隠すためだって。
だから悠斗がからかわれさえしなければ、あたし達は今だに仲が良かったかもしれない。
でも拓真君は悪くない。
そう思う自分もいた。
これはあたし達の問題。
拓真君は関係ない。
「…なんで、あのときからかったの?」
「唯ちゃんが走って帰っちゃった日?」
あたしは頷く。
拓真君は少し視線を泳がせたが、またあたしを見ると小さく笑った。
「唯ちゃんのことが好きだったんだよ。」
…え?…
あたしが固まっているのを見て拓真君は声をあげて笑う。
「でも悠斗と唯ちゃんが仲良いのは知ってたし、俺もそれ以上どうしようって気はあんまりなくてさ。」
拓真君は頭に手を置くとヘヘッと笑った。
「でもあの日悠斗と唯ちゃんを見ると、無性にムカムカして。
俺は悠斗に敵わないし、唯ちゃんが見てるのは悠斗だけってことは俺が1番分かってたから、今から考えたらバカな話なんだけど。
いつもより真剣な2人見てると邪魔したくなって…」