無理して笑うな

拓真君は少し悲しそうに笑った。




「ずるいよな、俺。

それで唯ちゃんが転校しちゃってすぐ後悔してるんだ。ただ迷惑だけかけて。

謝りも出来なかった。」




あたしはただ座って話を聞いていた。



同じ閲覧室の向こうでは同じ場面に出ることが多い役者さん達がそれぞれ集まって楽しそうに話してる。




「それから唯ちゃんがアイドルになって。俺も姉さんが親父から継いだ芸能事務所入ってモデル見習いやってたから、いつか会えないかなって…」




拓真君はハハッと笑った。




「その後、悠斗とはどうなの?付き合ったり?」




あたしは首を振る。




「悠斗とはあれからまったく。最近お兄ちゃんのお店でたまたま会っちゃったけど。」





「たまたま?」




拓真君が目を見開いた。




「そんなことがあるんだ…。」




「あたしもびっくりしたの。でもすぐに店飛び出しちゃった。」




そのとき、閲覧室の扉が開いて葉月さんと栗田さんが顔を出した。




「あら、2人結構仲良くなった感じ?」




栗田さんが嬉しそうに笑いながら近づいて来た。




「拓真、調子はどうなの?」




葉月さんは相変わらず無表情で歩み寄る。




「大丈夫だよ、姉さん。」




「ならいいんだけど。あなた、女の人と話すの苦手でしょう。」




「唯ちゃんは平気なんですー。」




拓真君は淡々と言うと2人には分からないようにあたしにニコッと笑った。



その顔はあたしに




『さっきの話、気にしないで』




と言っているように見えた。





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