無理して笑うな
厳しい世界
〈悠斗said〉
「おっはよーございまーーす!!」
俺はあまりに大きな流星の声に耳を塞いだ。
芸能界に入りたいと流星に明かした日の週末。
事は早い方がいい!という流星の提案で、俺達はさっそく流星の所属する太田芸能事務所に足を運んでいた。
BlueSkyのような、複数人がユニットを組んで活動しているグループがほとんどのRedStars芸能プロダクションに対して
この太田芸能事務所は個人が尊重され、流星のようなモデルや俳優といった1人で勝負する職種専門らしい。
あともう1つ。
この事務所は男性しか募集していない。
一昔前までは女性も少なからずいたようだが、今の若い女社長に変わってからは男しか募集していないそうだ。
「社長、すっげー美人だぜ!」
と、流星は言ってるけどそんなのまったく興味ない。
どれもこれも、全部流星や妹の瑞希に教えてもらった。
瑞希や母さんは、俺が芸能界にチャレンジしたいと言うととても喜んでくれた。
しかし頭の硬い父さんはなかなか許してくれなくて
「とりあえず面接だけでも受けさしてあげなさいよ。」
という母さんの言葉に負けて一応は事務所に顔を出すのを許してくれた。
「おお、流星!おはよう!」
1人の男が部屋の奥の方から手を振っているのが見えた。
「おはよーございます、三島さん!」
流星も笑顔で手を振りかえした。
「あの人、俺のマネージャー。もう1人ハルってやつがいるんだけど、そいつと俺の兼用マネージャーな。」
流星は三島マネージャーの元に走り寄った。
「こら流星。走るなと何度言ったら分かる。」
三島マネージャーは30後半といったぐらいで、少しぽっちゃりした優しそうな人だった。
デスクに左肘を乗せ、右手はまだ6月始めにもかかわらずうちわを持っている。
「そんなことより、三島さん。見てよ俺の親友。」