無理して笑うな

「おお、今度連れてくるって言ってたやつだな。」




俺は少し頭を下げた。




「初めまして、中村 悠斗っていいます。」




「うん。流星からよーく聞いてる。俺は三島 薫。あ、薫って名前だが男だ、男だぞ?」




三島マネージャーはがっはっはと大きな口を開けて笑った。



この人の第一印象。



…不思議な人。




「流星から芸能界に入りたい理由は聞くなと言われたから聞かないが、すべては君の態度次第だ。」




三島マネージャーはじっと、俺の頭からつま先までを見渡した。




「薫ちゃん。その癖直せよ!」




流星は呼び方を「三島さん」から「薫ちゃん」に変えて笑った。




「悠斗が引いちまうだろ。」




「うるさいぞ流星。俺は社長に品定めをしろって言われてるんだ。

社長は今拓真君のドラマのことでかかりっきりでお忙しいから、直接面接は出来ないんでな。」




「拓真君って、今話題の宮森 拓真ですか?」




俺は気付けばそう聞いていた。



大人気恋愛漫画の実写化を唯と務めると聞いて、名前は知っている。




「そうそう。この事務所のエースなんだよぉ!社長も拓真君には結構な期待を寄せてるからな。

拓真君のマネージャーが定年退職したあとは自らその代わりを務めて育ててる。いやぁ、今回のRedStarsプロダクションの嵯峨山 唯との主演は…」




「ごめん、悠斗。薫ちゃん1回話し始めるとなかなか止まらなくて…」




三島マネージャーは1人ぶつぶつと楽しそうに呟きながら、俺と手元の紙とを交互に見つめている。



そして口を動かしたまま、その紙に何かを書き留めた。




「…だから、あのドラマが成功すればRedStarsとはこれからもいい関係を築いていくことが出来る。はい、これ。」




三島マネージャーは俺にその紙を手渡した。




「面接試験用紙、監督官 三島 薫
面接希望者、中村 悠人………

三島さん、字間違ってます。悠斗です。」




「おお、それはすまない。」





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