無理して笑うな
三島マネージャーは名前を書き直すとまた手渡してくれた。
「ここに書いている人は全員この階にいる。みんな名札を付けてるし、デスクにもこうして記名されてるからな。」
三島マネージャーはコンコンと自分のデスクの端を叩いた。
そこには黒い字で『三島 薫』と掘られている。
「それを頼りに全員を回って面接をしてもらうんだ。
合格ならハンコをもらえて、全部たまればOK。はれてこの事務所の一員だ。」
「懐かしい。俺もしたなぁ。」
流星が興味津々で面接試験用紙を覗き込んだ。
「全員回り終わったら、ハンコが揃ってても揃ってなくてもここに戻って来い。
言っておくが、容姿だけが判断基準じゃないからな。どんなユニークなことを要求されるか知らんぞ。」
三島マネージャーの言葉に流星が笑った。
「ほんと、この面接受けたときはビビったよ。そんなことさせるか!?って。」
「それ以上言うな、流星。これは悠斗1人で乗り越えなければならない試練だ。」
俺は改めて面接試験用紙を見た。
そこには5人ほどの名前と、その横に四角い〝印〟の文字がある。
その1番上は、『三島 薫』だった。
「三島さん、三島さんの面接は何ですか。」
「お、俺の名前も入ってたのか?」
三島さんは「うーん」と考えるそぶりを見せた。
その間俺はどんなことを言われるのか、気が気じゃなかった。
「…よし、まずは俺のことは三島さんじゃなく、薫ちゃんと呼ぶこと。」
「…は?」
俺は拍子抜けして間抜けな声を出してしまった。
それを見て流星が声をあげて笑う。
「面白いだろ?ここの面接試験。俺も最初びっくりした。」
「分かったか?悠斗。」
「はい、分かりました。」
「よし、それならもう1つ。」
俺は内心(まだあるのか…)と思いつつ次の言葉を待った。