無理して笑うな

三島マネージャーは名前を書き直すとまた手渡してくれた。




「ここに書いている人は全員この階にいる。みんな名札を付けてるし、デスクにもこうして記名されてるからな。」




三島マネージャーはコンコンと自分のデスクの端を叩いた。




そこには黒い字で『三島 薫』と掘られている。




「それを頼りに全員を回って面接をしてもらうんだ。

合格ならハンコをもらえて、全部たまればOK。はれてこの事務所の一員だ。」




「懐かしい。俺もしたなぁ。」




流星が興味津々で面接試験用紙を覗き込んだ。




「全員回り終わったら、ハンコが揃ってても揃ってなくてもここに戻って来い。

言っておくが、容姿だけが判断基準じゃないからな。どんなユニークなことを要求されるか知らんぞ。」




三島マネージャーの言葉に流星が笑った。




「ほんと、この面接受けたときはビビったよ。そんなことさせるか!?って。」




「それ以上言うな、流星。これは悠斗1人で乗り越えなければならない試練だ。」




俺は改めて面接試験用紙を見た。



そこには5人ほどの名前と、その横に四角い〝印〟の文字がある。



その1番上は、『三島 薫』だった。




「三島さん、三島さんの面接は何ですか。」




「お、俺の名前も入ってたのか?」




三島さんは「うーん」と考えるそぶりを見せた。



その間俺はどんなことを言われるのか、気が気じゃなかった。




「…よし、まずは俺のことは三島さんじゃなく、薫ちゃんと呼ぶこと。」




「…は?」




俺は拍子抜けして間抜けな声を出してしまった。



それを見て流星が声をあげて笑う。




「面白いだろ?ここの面接試験。俺も最初びっくりした。」




「分かったか?悠斗。」




「はい、分かりました。」




「よし、それならもう1つ。」




俺は内心(まだあるのか…)と思いつつ次の言葉を待った。





< 99 / 135 >

この作品をシェア

pagetop