あかいもの。
「あーだりぃ!!」
何にも入ってなさそうな鞄を、明希はブンブンと振り回す。
「ちょ、かばん当たるしっ!」
こ、こいつはなにを考えてるんだろう。
通行人の邪魔ったらありゃしない。
「ねぇ、いまからどこに行ってるの?」
「晩飯の食料。」
そっけない態度で、大地が返してくれる。
それにしても
「時間帯早くね?」
まだ、昼にもなっていないのに。
絶対晩御飯の買い物の時間帯じゃないよね?
それなのにもう材料買いに行くってか。
気が早いなぁ。
「今日はもう疲れた。家に帰ってさっさと寝るぞ。」
いやいや、いくらなんでも早すぎ…
「まぁ、ゴロゴロできるからいいっしょ!!」
全く、なんでこんなにマイペースなのが多いんだか…。
「今日の晩飯は唐揚げなっ!」
明希が嬉しそうに、冬也を見つめる。
「別にいいけど、野菜までちゃんと食べろよ。」
明希の顔が険しくなる。
その隙をついてあたしは明希に駆け寄る。
「明希くん?
あたしはその歳にもなって野菜が苦手な貴方の事をとても尊敬するわ。」
にっしっし。
口に手を当てて、不気味な笑い声をあげる。
「波瑠、お前ぶっとばーすっ!」
その直後、あたしの言葉がどうやら頭にきたらしい、明希はあたし目掛けて一直線に走ってくる。
「や、やばいぞ。」
それに危機を覚えたあたしも、全速力で逃げていく。
「お、おまえ逃げんじゃねえ!!」
「そんな怖い顔で追いかけられたら逃げるし!」
「これのどこが怖い顔だっ!
ていうか、お前足速いなっ!」
後ろでゼーハー言いながら明希が喋る。
日頃煙草を何本も吸っているやつには、まだまだ負けないぜっ。
あたしも、全然いけるな~。
そんなことを考えながら、スーパーの自動ドアに歓迎され、あたしは全力ダッシュでスーパーへ駆け込んだ。