グレープフルーツを食べなさい
「女性社員は来客時にお茶を頼まれることが多いから、茶葉や茶器の場所を覚えておいて」

 給湯室に着くと、私はいつも通り野々村部長のお茶を淹れる用意をした。

 急須と湯呑みにお湯を注いで丁寧に温める。外側までしっかり温まったら、急須に茶葉を入れ、またお湯を注いで茶葉が開くまでゆっくり待つ。

 暫くすると、急須の注ぎ口から玉露の芳しい香りが立ち上ってくる。

 私は大きく深呼吸をして、淹れたてのお茶の爽やかな香気を体内に取り込んだ。

 どんなに仕事が忙しくて余裕がない時も、嫌なことがあった時も、私はお茶だけは丁寧に淹れるようにしている。

 朝に相応しいその香りは私の脳内まで届き、忙しい日々で錆付いた頭をリセットしてくれる。


 ……この瞬間が、好きだった。



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