グレープフルーツを食べなさい
「ってぇ」

「……上村?」

 上村が私の前に立ち、片頬を手で押さえていた。

 どうやら美奈子の手のひらは、上村の顔をヒットしたらしい。頬を押さえる上村の指の間から、うっすらと赤くなった皮膚が見える。

「ううっ……、ひっく……」

 美奈子はいきなりしゃくりあげると、へなへなと床に崩れ落ちた。

「一体どうしてこんなことになってるんですか」

「え……?」

 上村の冷たい声音にドキリとする。上村の視線は私を向いている。

 ……どうして、暴れていた美奈子ではなく私に訊いてくるんだろう。

「三谷さんが……、美奈子にひどいことを言うから」

「はっ?」

 取り巻きの一人の言葉に驚いて、私は言葉を失くした。上村は、一度大きく息を吐くと、ゆっくりと私を振り返った。


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