グレープフルーツを食べなさい
 あれから数日がたった。美奈子達はもう私に絡んでは来ない。

 表面上は、私達はとても穏やかに毎日を過ごしている。

 上村はあの後一度も部屋には来ていない。

 あの時の軽蔑したような視線が頭から離れなくて、私は社内で上村と顔を合わせても、なんとなく彼のことを避けていた。

「三谷ぃ、今日の得意先との商談の資料、ちゃんと出来てるよな?」

「はい、大丈夫です」

「あそこの専務、ご実家が老舗のお茶屋で味にはうるさいんだ。うまい茶淹れてくれよ」

「わかりました」

 今日の商談だけは絶対に落すことはできない。

 うまくいけば、部長が一年がかりで進めてきたチャイニーズレストランとのフランチャイズ展開の契約が今日にでも決まるはずだった。


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