グレープフルーツを食べなさい
「響子は? 今からちょっとでも抜けられないかな」

『……すみません。今、鮫島主任から急ぎの書類頼まれてて。しかも今日やけに機嫌が悪いんです』

 響子は最後だけ声のトーンを落した。もしかしたら、主任がすぐ側にいるのかもしれない。このまま内線で話してたら、余計に彼を怒らせてしまう。

「わかった、響子はそっちを優先して。こっちは私が何とかするから」

 受話器越しに何回も謝る響子をなんとか宥めて、私はようやく受話器を置いた。会議開始まで後50分弱。迷っている暇はない。

 私はとりあえず、学校の教室のように横向きに並んでいる長机を、商談用に楕円状に並び替えることからはじめることにした。

 「重っ……」

 二人掛りならなんなく運べる長机も、一人で運ぶとなると結構な重さだ。

 しかも、得意先の手前、今回使わない分はきれいに折りたたんで後方に一台ずつ積み上げておかなくては見栄えが悪い。
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