グレープフルーツを食べなさい
「思わないわ」

「えっ?」と二宮さんは口を開けたまま、再び固まってしまった。そんな彼女を、懐かしい思いで眺める。

 私にも、彼女のように「今どき女性だけがお茶汲みなんて」思う頃があった。

 今よりもっと視野が狭く、頑なで、大きな組織の中で仕事をするということがどういうことかよくわかっていなかった頃の自分を思い出し、私は自然と笑みを浮かべていた。


「お茶ってリラックス効果があるでしょう?」

「はい?」

 二宮さんは「この人は突然何を言い出すんだ?」とでも言いたげな顔で私のこと見つめてくる。それでも構わず、私は話を続けた。

「たとえば、残業続きで疲れてる営業さんがいるとするでしょ。朝から美味しいお茶を飲めば、リフレッシュできてまた今日一日頑張ろうって思ってくれるかもしれない。
企画会議中、なかなかいいアイデアが出なくてみんなして煮詰まってたのに、自分の淹れたお茶で気分転換ができて、新しい発想が生まれるかもしれない。
例えはちょっと大げさかもしれないけど、お茶一杯でみんなが気分良く仕事してくれたらそれだけでも嬉しいと思わない?」

「あ……」

 二宮さんの表情が、ほんの少し明るくなった。わかってくれたみたいで、私も嬉しくなる。

「自分次第で仕事のやりがいって変わってくると思うよ。一緒に頑張ろう」

「はい!」

 二宮さんは私の言葉に笑顔で頷いてくれた。私も満足して、彼女に微笑みを返した。


< 12 / 368 >

この作品をシェア

pagetop