グレープフルーツを食べなさい
「なんだよ、やめてくれよ。……なんだか嫁にやる父親の気分だよ」

 そう言って部長は眉を下げる。

「三谷ならどこに行ってもうまくやれるよ。あっちに行っても頑張れよ。上村のこと、おまえが助けてやってくれ」

「わかりました」

「涙は送別会まで取って置くよ」

 そう言うと、部長は手を振りながら外食部へ戻っていった。

 鳴沢さんとの結婚が破談になったときも、部長は何も言わずに私を迎え入れてくれた。社内で上手く立ち回れない私を、いつも陰ながら助けてくれた。

 部長がいなければ、今の私はない。廊下の奥に消えていく後姿に向かって、私はもう一度頭を下げた。

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