グレープフルーツを食べなさい
 週末の間に、ようやく気象庁が梅雨明けを発表した。今日は朝から抜けるような青空が広がっている。

 バスから降りると、通りの木々から長く降り続いた雨の代わりにクマゼミのやかましい声が降り注ぐ。

 黒い日傘でそれを受け、私は母が待つ病院を目指した。

 日傘で日差しはかわせても、アスファルトからの照り返しが眩しい。あまりの暑さに病院のエントランスに着く頃には、額から汗が吹き出ていた。

「母さん、どう?」

「香奈、いらっしゃい」

 ヘッドボードにもたれたまま、母は私を出迎えた。私を見て、途端に顔を綻ばせる。

 口には決して出さないけれど、私が来るのをずっと待っていたのだろう。

 元気そうな母を見て、今日は体を起こしていられるほどには気分がいいんだな、と安堵する。


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