グレープフルーツを食べなさい
「……母さん?」

 呼びかけると、今度は閉じたままの母の目蓋がピクッと反応した。

「母さん、わかる? 私よ。香奈!!」

 うっすらと母の目蓋が開く。

「か……な?」

「よかった……、母さん。本当によかった……」

 私は繋いでいた母の手を、更に強く握り締めた。母はそれに応えるように、ゆっくりと指の腹で私の手を撫でてくれた。                               

 母は私の手を何度も撫で、ようやく安心したのか、私の手に触れたまま再び眠りに落ちた。

 眠りに落ちる寸前、私に見せた微笑はいつもの穏やかさに満ちていた。普段の母に戻ったようで、ようやく私も肩の力が抜けた。

 それでもやはり医師からの説明は、決して安心できるものではなかった。

 覚悟をしておいてくださいと言われ、呆然としたまま夜間外来のドアを押し、上村と二人で病院を後にした。


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