グレープフルーツを食べなさい
 いつもの棚から茶筒と急須と湯呑みを取り出し、セットする。

 こんな時は濃い目の玉露がいい。いつもより蒸らしの時間をさらに少し長くした。
 
急須から漂う玉露の香りを胸いっぱいに吸い込む。とりあえず母のことは置いておいて、今は仕事に集中しなければ。

 今度は味を楽しもうと急須に手を伸ばした時、「先輩」と後ろから声をかけられた。

 振り向くと、出先から戻ったばかりなのだろう、額に薄く汗をかいた上村が給湯室の入り口に立っていた。


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