グレープフルーツを食べなさい
 私がコップを手渡すと、上村は言われた通りにコップを揺すった。素直に言うことを聞く上村がかわいく思えて、思わず笑みが浮かぶ。

 上村は氷が解けたのを確認すると、一息に飲み干した。

「うまい! ありがとうございました」

「うまいって、味わう暇なんてなかったじゃない」

 そう茶化しながら、上村から空になったコップを受け取った。

 お茶を淹れるくらい、あの日上村に助けてもらったことに比べたらなんてことない。

 あの夜以来、上村と会社で二人になるのは初めてだった。母のことがあって上村も遠慮しているのか、最近はあまり部屋を訪ねてこない。

 私はずっと上村にあの夜のことを謝りたいと思っていた。


< 173 / 368 >

この作品をシェア

pagetop