グレープフルーツを食べなさい
「あの日はごめんね。上村も仕事で疲れてたのに、遅くまでつき合わせて」

「いいですよ、あれくらい」

 上村には、たぶんなんでもないことなんだろう。職場の先輩にちょっと手を貸してあげた。それぐらいにしか思っていないかもしれない。

「それでね、ちょっと話があるんだけど」

 それでもあの日、私は上村の存在に救われた。その上私は、上村の翌日の仕事に支障が出てもおかしくないような迷惑をかけた。もちろん上村はそんなことはしなかったけど。

 これからきちんと一人で母に向き合うためにも、もう上村を部屋に上げてはダメだと思った。いつ病院から連絡があるかもわからないし、もしまたそんな時に居合わせたりしたら、上村は何度でも私を助けようとするだろう。


 私はこれ以上、自分以外の誰かに甘えるようなことはしたくない。


< 174 / 368 >

この作品をシェア

pagetop