グレープフルーツを食べなさい
「ちなみに、今三谷さんを躊躇させているものは何?」

「それは……」

「よかったら、聞かせてもらえませんか」

 岩井田さんにも話した方がいいんだろうか。母のことは、まだ館山部長と上村にしか話していない。

「絶対に口外はしませんので、三谷さんさえ良かったら。何か力になれるかもしれないし」

 岩井田さんの人柄は私もよくわかっている。私は誰にも口外しないと言う岩井田さんを信用することにした。

「実は、母が入院していまして」

「ご病気ですか?」

「末期の癌で、お医者様には長くはないと言われています。家族は私しかいないので、できる限り母の傍についていてあげたいし。あとは金銭的な面でも……」

「なるほど、今の会社にいれば安定はしていますもんね」

「そうなんです」

 私の話を聞き終えると、岩井田さんは組んだ両手に顎を載せ、しばらく考え込んだ。


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