グレープフルーツを食べなさい
いくら岩井田さんだって、こんな厄介な事情を抱えた人間を引き抜こうとは思わないだろう。私は話を無かったことにされても仕方がないと思っていた。

「……わかりました。何か困ったことがあったらいつでもおっしゃってくださいね。お返事はまた後で構いませんので」

 それなのに岩井田さんは、私の話に全く動じている様子がない。

「あの、このお話無かったことにしてくださって大丈夫ですよ? 私なら構いませんので」

「どうして? 僕の話に何か気に食わないことでもありました?」

「いえ、そんなんじゃないです。そうじゃなくて……こんな事情があったら、普通はお断りされるんじゃありませんか?」

 岩井田さんはまた眼鏡のブリッジを持ち上げ、安心したように微笑んだ。

「僕が? まさか。そんなことはしませんよ。僕は三谷さんがいいのに」


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