グレープフルーツを食べなさい
「いいお母さんじゃない」

「まあ……そうですね」

 上村の表情が柔らかくなった。やっぱりお母さんのこと、好きだったんだな。

 ……これは、祥子さんに言われたことを話してみるチャンスなんじゃないだろうか?

 余計なお節介だと言われるのも覚悟して、ついに私は声を出した。

「上村あのさ、上村のお母さんって亡くなってるのよね?」

「……は?」

「実は……この前、母の病院で祥子さんに会ったの。土井祥子さん、……上村知ってるよね?」

 再び祥子さんの名前が私の口から出たことに驚いたのか、上村はコーヒーカップを口に運びながら眉間にしわを寄せた。不機嫌さを隠そうともしない。

 ほんの数秒で、それまでの和やかな雰囲気は一変してしまった。


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