グレープフルーツを食べなさい
 岩井田さんは自販機がある休憩コーナーのベンチに腰掛けて、私を待っていた。

「じゃあ、はじめようか」

「はい、お願いします」

 岩井田さんの予定を一つずつ手帳に書き込み、私が担当する書類を確認していく。今週は大きな商談もなく、比較的余裕がありそうだった。

「じゃあ今週もよろしくお願いします。三谷さん、ちょっとコーヒーでも飲もうか」

 岩井田さんは自販機で二つアイスコーヒーを買い、近くのベンチに腰掛けた。

「三谷さんもどうぞ」

「ありがとうございます。いただきます」

 そう言うと、岩井田さんは私の分の缶のプルタブも開けて、手渡してくれた。

 本当に岩井田さんの気遣いには隙がない。女の子に人気があるわけだ、と思う。

 岩井田さんはアイスコーヒーを一口飲むと、やはり独立の話を切り出した。

「それで三谷さん、例の話なんだけど……」


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