グレープフルーツを食べなさい
『僕のデスクの上に青いファイルが出してあると思うんだけど……』

「ああ、あります」

『悪いんだけど、第二会議室まで持ってきてくれないかな。あと、よかったらお茶も。その、みんな気分転換が必要みたいだ』

 電話越しに声を聞くだけで、岩井田さんが苦笑いしているのがわかる。話が行き詰って、みんなイライラしているんだろう。岩井田さんらしい気遣いだなと思う。

「わかりました。すぐにお持ちします」

『助かるよ、それじゃ』

「ごめんなさい、ちょっと第二会議室行って来ます」

 私は受話器を置くと、近くの席の女子社員に声をかけ、席を立った。

 今日のミーティングには、麻倉さんも参加している。もちろん、上村も。朝から部内で親しげに言葉を交わす二人のことを、私も見ていた。その様子を見て、こそこそ耳打ちをする女子社員たちもいたから、社内でも二人のことが広まっているのかもしれない。

「……仕事だ、しっかりしろ香奈」

 小声でそう呟いて、自分に喝を入れる。一度、大きく深呼吸をして、第二会議室のドアの前に立った。


< 297 / 368 >

この作品をシェア

pagetop