グレープフルーツを食べなさい
「唐湊(トソ)郵便局の方へ向かってください」

「へえ中山、唐湊なんですか」

「響子K大卒でしょ? 学生の時からマンション変えてないのよ」

「ああ、引越しとか面倒がりそうですもんね」

 すっかり寝入っている響子の顔を見て、上村はくすりと笑った。

「上村、飲み会では変な態度取ってごめんね。上村ってもてるから、その……色々面倒なんだよね」

 私は上村に、飲み会でのつれない態度を謝った。

 わざわざ席を移ってまで挨拶に来てくれたのに悪いことをしたな、とは思ってたから。

「ああ、別に気にしてないですよ。職場に女性が多いのも大変そうですね」

 私に肩を預け寝息を立てている響子の頭越しに、目尻を下げる上村が見えた。

「……仕事のことだけ考えていられたらいいんだけどね」

 ふと零れた私の言葉に、上村が敏感に反応した。


「……先輩ってそんなに仕事人間でしたっけ?」


< 30 / 368 >

この作品をシェア

pagetop