グレープフルーツを食べなさい
過去
「運転手さん、黎明ホテルまでお願いします」

 上村が告げた行き先は、繁華街から少し離れた高台にあるホテルだった。

「街中に戻らないの?」

「会社のやつらに会ったら面倒でしょう? この街も久しぶりだし、ゆっくり夜景でも眺めながら飲みませんか」

 確かに上村は一次会の間中、女の子たちに囲まれて大変そうだった。

 いくら人のいい上村でも、さすがに懲りたんだろう。

「わかったわ」

 私の返事に上村は笑顔を見せた。


――――――

「それで、向こうはどうだった?」

 窓ガラス越しに、煌く夜景が広がる。

 寡黙なバーテンダーが鳴らすリズミカルなシェイカーの音を聞きながら、私と上村は静かにグラスを合わせた。

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