グレープフルーツを食べなさい


「三谷さん、もう出てこられたんですか?」

「岩井田さん、あけましておめでとうございます」

 早朝のオアシス部で、まだ正月休みを引きずっているらしい、眠そうな目をした岩井田さんに頭を下げた。

「年末は、色々とありがとうございました」

 クリスマスだというのに、母の葬儀には会社からもたくさんの人が駆けつけてくれた。岩井田さんもその一人だ。

「その、もう大丈夫なのかな。こんなこと聞くのもあれなんだけど……」

 不安気に私を覗きこむ岩井田さんにこれ以上心配をかけたくなくて、私はにっこりと微笑んだ。

「私は大丈夫ですよ、岩井田さん」

 それなのに、岩井田さんの顔はなぜかまだ晴れない。

「……本当に?」

「岩井田さんって案外心配性なんですね」

 眼鏡の奥、私に心配そうな視線を向ける岩井田さんに、私はもう一度微笑んでみせた。

「いや、だって……君葬儀の時、一度も涙を流さなかったから……」


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