グレープフルーツを食べなさい
 とにかくずっと靄がかかったような頭をすっきりさせたくて、私は食事もそこそこにシャワーを浴びた。

 濡れた髪を乾かそうと、洗面台の前に立つ。覗き込んだ鏡の中の自分に、私は初めて母の面影を見た。

「ずっと似てないって言われたのに……」

 私はおそらく父親似なのだろう。母と一緒に居ても、これまで似ていると言われたことがなかった。それなのに……。

 鏡の中の自分に手を伸ばしてみる。

 キリと上がった眉、すっと通った鼻筋、痩せた頬、薄い唇。

 いつの間にかこんなにも、私は母に似てきていた。

「本当に、居なくなったんだなあ……」

 今頃、母の不在を実感して、一粒、二粒と涙が零れる。


「……とうとう一人になっちゃった」


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