グレープフルーツを食べなさい
「これでも私、ちょっとは三谷さんのこと尊敬してたんです。三谷さんがオアシス部に異動になって、しばらく外食部はパニックだったし。仕事の割り振りとかみんなのフォローとか、見えないところで色々やっててくれたんだなって。それなのに、いつの間にか会社も辞めちゃうし!」

「もう、そんなに大きな声出して。子供の胎教に良くないでしょ」

「あっ、すみません」

 冗談のつもりだったのに、美奈子は真に受けて両手で口を押えて黙ってしまった。この子も根は真面目なのだ。かわいくて、ついからかいたくもなる。

 一人で不安になることもあるけれど、そんな私を美奈子が支えてくれているのもまた事実だった。


 岩井田さんからの話は、きちんと断わった。

 父親の名前は出さずに妊娠のことを告げると、岩井田さんは驚きつつも納得してくれた。そして、まるで自分のことのように心配もしてくれた。

 こんな私のことを好きだと言ってくれて、本当に嬉しかったし、何より自分の将来を見つめなおすきっかけをくれた岩井田さんには、心から感謝している。


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