グレープフルーツを食べなさい
 診察と会計を終えて待合室に戻ると、美奈子は何やら熱心に本を読んでいた。

「美奈子お待たせ。何読んでるの?」

「あっ、三谷さん」

 何故か美奈子は、本を鞄に隠そうとした。寸でのところで、本に手を伸ばす。

「何、この本。……『赤ちゃんのお世話の仕方』?」

「ちょっと、返してくださいよ!」

「……美奈子、赤ちゃんの面倒もみてくれるつもりなの?」

 私が言うと、美奈子は頬を赤らめた。

「ねっ、念のためですよ。三谷さんだって、会社でよく『備えあれば憂いなし』って言ってたでしょう」

「ありがとう、美奈子」

 私の素直な言葉に照れたのか、美奈子は「荷物持ちますよ」と言って、私が提げていた荷物を取り上げた。

「あれ、こんな紙袋持ってましたっけ?」

 美奈子が白い小さめの紙袋を見て、首を傾げている。


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